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第104話

〝由弦にとって雪也は特別〟  周の言葉が脳裏に蘇る。あぁ、そうだ。確かに、特別だった。あの庵の中に迎え入れてくれた人。嫌悪など微塵も抱かず、兄弟のように、あるいは母のように、その華奢な背中ですべてを受け入れ、抱き留めてくれた人。確かに由弦の中で雪也は、昔から特別だった。  そして、もう一人。由弦にとってかけがえのない、特別な人。  最初に由弦を、サクラを受け入れ、手を差し伸べてくれた人。 「由弦?」  そう、こんな風に優しい声音で、いつだって由弦の名を呼んでくれた。 「由弦? どうしたんだ?」  そっと肩に手が触れる。その温もりを感じて、由弦はハッとサクラの背に埋めていた顔を上げた。 「どうした? なんか嫌なことでもあったか?」  顔にサクラの毛がついてるぞ、と笑って、指先でちょいちょいと毛を取り除いてくれる。その姿に由弦は目を見開いた。 「紫呉……」

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