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第112話

 きっと、そこに愛した人たちがいる。ずっと握りしめていたいと願った、陽だまりの日々も。紫呉が〝知らない方が良いもの〟だと言うのなら、きっと最期は悲惨なものか、あるいは残酷なものであるのだろう。知らないでいるという選択肢を残してくれたのは、きっと紫呉の優しさだ。それでも、由弦は知りたいと願う。由弦の内側にいる、もう一人の自分が叫ぶのだ。会いたい、と。 「……わかった。少し、長い話になるがな」  由弦を抱きしめたまま紫呉はゆっくりと深呼吸する。あの日に戻るように、そっと瞼を閉じた。 「さっき、お前は俺に言ったな。〝あんたは弥生様の護衛で、友で、俺たちを愛してくれた、あの紫呉か?〟って。――俺は、その問いに〝そうだ〟と答えよう」  静かな答えに、しかし由弦は驚くことはなかった。胸に広がったのは、〝あぁ、やっぱりそうだ〟という安堵にも歓喜にも似ている。 「そう、俺は護衛だった。教科書に載ってる時代に生きた、教科書に載らない英雄の、護衛だった」  物心ついた時からずっと一緒で、護ると誓った人。彼の背中を見つめ、彼が歩む道を切り開くことが誉だった。

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