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第114話
「たぶんサクラは外国から来たか、もしくは外国の犬がこちらで産んだか。そこらへんはわかんなかったけど、あの時代は犬を見たことが無い奴ばかりだったからな、今みたいにしょっちゅう風呂に入れて毛を整えてってのもできなかったし、そういう色んなもんが重なって、サクラは化け物だと言われて、そんなサクラを連れてたお前は怪しい奴になっちまった。それ以前のことは俺も知らねぇけど、親も家も無かったみたいだしな。だからお前はずっと警戒してた。サクラを抱きしめて、絶対に離さねぇって。でも、サクラと一緒になら俺についてきてくれると言った。一緒に弥生の所に行って、一緒に屋敷に帰って、お前は〝お偉い人のお屋敷では眠れる気がしない〟なんて言ってたけどな」
あの日、屋敷を見て顔を顰めた彼を思い出し紫呉はクツクツと笑う。しかし腕の中にいる由弦はどこか居心地悪さを感じていた。
紫呉の話を聞くにその時代を生きた〝由弦〟は世間知らずだったのだろうが、他人の住まいを見て〝お偉い〟だの〝寝れる気がしない〟だの、まあまあ言いたい放題言っている。よく紫呉も弥生も笑って許してくれたものだ。
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