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第117話

「特別な事は何も無かったかもしれねぇ。でも今から思えば全部が特別だった。それくらい、あの日々は、幸せの塊だった」  ずっと、こんな日が続くと信じていたかったほどに。 「けど、今から考えればその幸せは、随分短いものだったな。お前も授業で習っただろうが、あの時代はまさに動乱だった。利益や欲望も絡んでただろう。けど、正義のために戦った奴も多かった。それが厄介なことになったとも、言えるな」  向けられた敵意が欲望や嫉妬といったものであればどれほど良かっただろう。どれほど楽に息をすることができただろう。だが実際に紫呉を貫いたのは、紫呉とは相容れない〝正義〟だった。 「長い間政を行っていた衛府は亡ぶ。思えば弥生はずっと前からそれをわかっていたようだった。わかっていて、覚悟しているようだった。だけど、覚悟してたからといって弥生は多くの人間が殺されるのを良しとするような人間じゃない。だから弥生は当時の将軍が望むままに帝の元へ向かった。争いを終結させるために」

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