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第118話
それは弥生にしかできないことだった。帝と近臣という立場を超えることができた唯一の人間。例えそれがどんな状況であれ必ず耳を傾ける、帝が友と呼んだ人。
「そして争いは終結した、だろ? 紫呉先輩。俺も授業で習ったことがある。衛府は滅んだけど、戦争にはならなかったって」
激動の時代というのは、残酷な言い方をすればドラマチックだ。多くの想いがあり、思想があり、希望があり、無念がある。何かを強く持つ者の死ほど美しく感動的に思えるものはない。だからこそこの時代は多くのドラマや書籍などの題材となり、ある程度の年齢になれば大半の者が自然とその歴史を、執着点を既に何となくでも知っている。由弦もその一人だ。まさかその時代に自分が生きていたなどとは、思ってもみなかったが。
「ああ、そうだな。教科書は間違っちゃいねぇよ。俺もこの時代で初めて聞いたが、帝の勅命を持ち帰った弥生はギリギリ間に合って、戦が起こることはなかった。衛府は滅んだが、それ以上の死者を出すこともなかった。――由弦、弥生の願いは叶ったように見えるだろ?」
弥生の望む通りに戦を回避し、血を流すこともなかった。既にわかっていたというのなら、衛府が滅んだことは弥生の悲劇にはなりえない。彼が願った通り。いわゆるハッピーエンドだ。
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