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第119話
「まぁ、そう見える」
急な問いかけに戸惑いつつも、由弦は頷いた。それだけの力を持っていたことにも驚いたが、すべては弥生の願ったままに進んだはず。
だが少し、違和感が残る。
どうしてそれほどまでの功績を遺した弥生の名が、教科書に刻まれていないのだろうか。
由弦は勉強が苦手だ。もしかしたら自分が知らないだけだろうかと思ったが、瞬時にその考えを消す。
先程紫呉が言っていたではないか。〝教科書に載らない英雄〟と。
「きっと、あの時代に生きた多くがそう思っただろうな。けど、俺は知ってる。俺も、弥生も、優も、確かに無駄な殺戮は止めたいと思っていた。戦になったら真っ先に誰が犠牲になるかを知っていて、それで良いじゃないかとは思えなかったからだ。それは嘘じゃない。嘘じゃないが、同時にそれだけが真実でもないんだ」
あの日願ったもの。今でも鮮明に思い出せる、あの想い。
「由弦、俺たちが何よりも強く願ったのは、お前たちが幸せに生きれる世の中であってほしいということだ。誰よりも、何よりも、お前たちに生きていてほしいと願い、その幸せを願った」
だから走った。走って、走って、掴み取ろうとした。その先に幸せがあると信じ、彼らが帰りを待ってくれていると信じて。
「けど、結局そんな日は訪れなかった。だからな、由弦。まわりがどう言おうと、歴史がどう判断しようと、弥生の、俺の、願いは叶わなかった」
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