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第121話
「サクラはずっと、弥生と一緒にいてくれたそうだ。それから優が病に罹り、そう間もおかず弥生も世を去ったらしい」
衛府が無くなり、近臣としての地位を失った弥生は父親と優と共に、サクラを連れて小さな家に移り住んだ。縁を沢山結んでいた春風家だったから、あんな時代にあっても弥生や父親を助けようとする者は多かっただろう。けれど弥生も父もそれを断り、ひっそりと暮らし、去った。あれほどの大業を成し遂げたというのに、歴史に名を刻まれることすらないほど、晩年はただ静かに時を刻んでいたのだろう。
「……じゃぁ俺たちは、弥生さまも、優さまも、紫呉も、置いて逝ってしまったんだな」
優しさに溢れた人たちだった。思い出す。最初に、自分とサクラに向けてくれた眼差し。由弦があれこれと考えて心配をするのに、カッカと笑って大丈夫だと断言してくれた、温かく、強く、大きかった彼ら。
サクラだけでなく、そんな彼らをも、置いて逝ってしまったのか。
由弦はサクラを強く抱きながら顔を俯ける。そんな由弦の頭を、紫呉はそっと撫でた。
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