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第122話
「まぁ、時だけを見るなら、そうだな。けど、それは俺も同じだ。俺もまた、弥生と優を置いて逝ってしまった。例えお前らがあの庵で待っていてくれたとしても、俺はお前らの元には帰れなかった」
自分は弥生の護衛だ。身を挺して主を守り、その刃で主の進む道を切り開き、誰にも邪魔されぬよう死守するのが役目。だから、弥生を殺そうと待ち伏せていた者達を一手に引き受け、先に行けと逃がしたのは間違った判断ではない。護衛としてはそれが最善だった。
けれど、今になって紫呉は思う。
護衛としてあれが最善であったとしても、弥生の友としては、最悪の選択であったと。
「弥生には悪いことをした。あいつを思うなら、ある程度退けたら逃げるべきだった。恥を晒そうと、無様を晒そうと、泥を被ってでも生きてあいつの元へ戻るべきだった。けど、俺は――、そう、俺は、本音を言えば、お前たちのいない庵に、帰りたくなかったのかもしれない」
弥生の護衛だからと弥生にも、優にも、他者にも、世間にも――自分にも、言い訳をして。本当はただ、その現実を見たくなかっただけなのかもしれない。
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