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第123話
「敵が攻撃を仕掛けてきた。同じように国の未来を思ってた奴らだったが、そのやり方や思想が俺たちとは相容れなかった。それだけだったが、たったそれだけが殺し合いになった。弥生と優を逃がして、どんだけ敵を殺しただろうな。数えきれねぇし、今にして思えば最後の方はまともな思考も残っちゃいなかったな。それでも戦って戦って、最後は弥生の元に帰ることなく死んだ。ずーっと後悔だけをして、死んだ」
雪也に、由弦に、湊に、戦い方を教えたのは紫呉だった。刀や槍の持ち方を教え、薙ぎ払えるだけの力と技術を教えた。けれど、本当に教えるべきものが他にあった。
「由弦、この世界に生きて、今やっと記憶を取り戻したお前に言うべきものではないのかもしれねぇ。自己満足だと言われれば、そうだとしか答えようもない。だが、この機会に言うことを、許してくれ」
強く腕の中の温もりを抱きしめる。由弦のつむじに、頭をさげるように額をつけた。
「お前たちに教えるべきは、敵を倒す力じゃなく、逃げることだった。何があっても命を守れる術を教えてやるべきだった。そして俺は後悔して、後悔して、命を軽んじ弥生の元へ戻ることもできなかった。それさえも、お前たちを理由にしてしまった。――すまない」
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