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第125話

 最期の時、あなたは痛かっただろう。苦しかっただろう。あの時代はきっと、紫呉にとっても楽しいばかりではなかったはずだ。それでも、覚えていてくれた。こうして、痛みをおしてでも真実を話してくれた。だからこそ鮮明に思い出すことができた。  サクラを。雪也を。周を。蒼を。湊を。あの時代に光を、温もりを、居場所を与えてくれた、大切な家族を。 「……ゆ、づる……」  唇が震える。吐く息すら熱くて、なかなか声が出ない。もどかしくてもどかしくて、紫呉は強く強く由弦を抱きしめた。腕の中に彼がいる。手の甲に柔らかな温もりがある。あの日、望み続けたものだ。 「――ただいま」  ボロボロと涙が零れ落ちる。あの日、泣けなかった自分に代わるように、溢れて溢れて止まらない。嗚咽は漏らすまいと唇を噛みしめた紫呉に、由弦はそっと頬を寄せる。そして彼の頬にもまた、雫がつたい落ちた。

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