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第126話

 雪也達に記憶は無いようだが、弥生や優は覚えている。そう紫呉から聞いた由弦はサクラを抱いたままリビングに降りた。  ちょうど大学から帰ってきた二人は明らかに泣いたのであろう真っ赤な目をした由弦にギョッとし、何をしたんだと紫呉に視線を向ける。しかし紫呉が何かを言う前に、由弦は立ったままボロボロと再び涙を零し始めた。どう見ても弥生と優の姿を見て泣いたのだとわかるそれに、二人はらしくもなく慌てる。  何か傷つけるようなことをしてしまっただろうかと慌てる二人に、違うのだと由弦は首を横に振った。勘違いが加速する前に言わなくてはならないと思うのに、どう言えば良いのかわからない。  突然記憶が蘇りました?  前世を思い出しました?  あなた達の昔を知っています?  どれもが正解ではあるが、しっくりこない。この胸の内を表すのに、そんなどこか事務的な言葉は不似合いだ。  そう、違う。もっと言いたいことがある。呼びたい名が、ある。

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