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第128話
「由弦~、もう元気~?」
笑みを浮かべる由弦が見えたのだろう、蒼がニコニコとしながら言う。言葉こそないが、同じように湊も笑っていた。そんな二人に由弦もニカッと笑みを浮かべる。
「おう、悪いな」
今日はずっと家に居るはずなのにサクラと共に姿を消したせいで心配をかけてしまったのだろう。どう見ても目は真っ赤で泣いていたことは誤魔化せないが、由弦が言わない限り蒼たちは何も聞いてくることはない。だからこそ由弦は迷いなく蒼たちに近づいた。サクラを抱いたまま、弥生も優も紫呉も後輩組のリビングに移動する。見ればソファに雪也と周が座っていて、由弦の姿を見ると微笑んだ。その微笑みが何一つ変わらないから、由弦はほんの少し、胸が締め付けられる。
紫呉は言った。雪也も周も、蒼も湊も、多分覚えていないだろうと。由弦のように記憶が戻ることもあるかもしれないが、何がきっかけになるかなんて誰にもわからない。なにせ由弦にとっての、サクラとの約束のように、記憶を取り戻す強い何かが存在するとしても、紫呉たちは雪也達の最期に立ち会っておらず、蒼と一緒にいた由弦ですら、一瞬のことで蒼が何を思い、何を考えていたかなんて知る由もない。雪也と周にいたっては、今初めてその最期を知ったほどだ。
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