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第130話
「ねぇねぇ先輩、せっかくこっちに来たんだから晩ご飯一緒に食べよう?」
「お米もいっぱい炊いたからね~」
湊と蒼が弥生達にじゃれつきながら強請る。じゃぁ冷蔵庫の煮物も持ってこようか、なんて弥生が応じ、優も微笑みながら頷いた。紫呉は由弦と肩が触れる距離から離れることなく、肉もあるぞ、なんて言っている。そのほんの少し触れる温もりに自然と力が抜けた。小さく息を零し、ソファの方へ視線を向ける。そこに座っていた雪也がふわりと欠伸を零した。チラと視線を向けた周の頭をポンポンと優しく撫でて、雪也は立ち上がると部屋を出る。おそらく自室に寝に行ったのだろう。
あの日と変わらぬ優しい光景に、あの日と違うほんの少しの変化。
思い出せば、周が雪也と同じ歳というのにも少し違和感を抱くが、いつもどこかで自分だけが子供であることを歯がゆく思っていたようだから、この時代で同じ歳になったのは周の願いが届いたからかもしれない。そして、あの時は狭い庵だったということもあるだろうが、いつだってそこにいた雪也は、こうして輪から離れて一人眠ることが多くなった。これがどんな意味を持つかはわからないけれど、今があの日々ではないのだと確かに由弦に知らせる。
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