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第131話

「おや? 流石に飽きてきたか?」  ボンヤリとしていれば、耳に弥生の声が響いた。視線を向けると弥生の腕に抱かれたサクラがモゾモゾと動いている。大人しく抱っこされるのに飽きたのだろうかと弥生がサクラを下ろせば、サクラはスタスタとソファの方へと向かった。そして周の足にグイグイと頭突きをする。ボンヤリと雪也が去っていった方を眺めていた周は足に受けるそれにようやく視線を動かし、サクラがつぶらな瞳で見上げてくるのを見て、ほんの少し唇を動かした。  そっと、言葉も無く周はサクラを抱き上げてソファの上に降ろす。するとサクラは満足したように頷き、周の太ももにピッタリと身体を寄り添わせながら眠った。 (いい子だな、サクラ)  きっと周が独りポツンといることに気づいて、そっと寄り添ったのだろう。サクラは人の言葉を話すことはできないが、心の機微に敏感で、いつだってそっと寄り添ってくれる。  そうだ。あの時、紫呉が眠っている雪也に手を伸ばした時もまた、サクラは由弦の感情を察して、その手の下に身体を滑り込ませた。あの時紫呉が触れたのは雪也の髪ではなく、柔らかなサクラの毛並みだった。

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