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第135話
雪也は部屋に鍵をかけることはあまりない。それを知っている由弦は一応ノックをしたものの、返事どころか足音ひとつ聞こえないのを確認すると躊躇うこともなく扉を開いた。
シンと静まり返った薄暗い室内。壁に沿うようにして置かれたベッドの上で、雪也がゆっくりと胸を上下させながら眠っていた。そっと足音を立てぬよう近づいて、ベッドの空いている空間に腰を下ろす。窺うように視線を向けても、雪也は起きた様子もなく規則正しい寝息を零している。その口元がほんの少し笑みを浮かべているように見えて、由弦も知らず笑みを零した。
(雪也……)
思い返せば、あの頃の雪也は寝顔さえもどこか苦しそうだった。何かを耐えているような、自然と眠っているというよりは、無理矢理眠ったのだというような、そんな不自然さがあった。あの頃は何もわからず、由弦も世間知らずゆえに何も感じ取ってあげることはできなかったけれど、きっと雪也もまた、あの時代で多くのものを抱え込んでいたのだろう。
(でも今は、なんか楽しそうだ)
常に穏やかに微笑んでいる雪也は、眠っている時ですら楽しそうに笑っている。あの時代を忘れ、今を楽しく生きているからだとすれば、やっぱり思い出してほしいなんて我儘は言えない。
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