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第136話
あの時の弥生たちと同じように、雪也は由弦とサクラを精一杯守ってくれた。同じくらいの歳だったのに、兄というよりは、まるで父のように、あるいは母のように愛し、慈しんでくれた。辛そうにしている時もあったけれど、彼はいつだって〝何でもないよ〟と言って笑った。――あの時の由弦は、何もしてあげられなかった。何を返すこともできなかった。与えられるばかりで、雪也の為になったことなどひとつも無いだろう。だからこそこの世界では、笑っていてほしいと願う。多くを、返したいと思う。
「ゆきや」
呼べば、ふわりと雪也の口元が笑みを浮かべる。その穏やかな笑みに、由弦は何故か泣きそうになった。
「俺は最低だよな。結局いつまでたっても自分のことばっかりだ。けど、俺はお前が大切で、幸せになってほしくて……」
じゃぁ、周は?
言い訳のように言葉を紡げば紡ぐほど、自分の中の誰かが問いかける。紫呉と雪也を選ぶなら、誰の目から見ても雪也を慕っている周は見捨てることになるだろう。それで良いのか?
「俺は……」
あぁ、頭がグチャグチャだ。考えることは苦手なのに、近頃は考えてばかりいる。そして答えは出ずに、グルグルと迷宮の奥深くに入り込んでしまったような感覚に陥った。
どれもが自分の素直な想いであるはずなのに、どれもが取り繕った偽りでしかないと思ってしまう。
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