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第140話
「もうさっさと気づけば良い。何もかもが茶番だって。悩むのも思い込むのも青春だって弥生先輩は言ってたけど、もう充分グルグルしたはず。どうせ青春するなら、次の場所ですれば良い」
どうせこちらが何を言ったって、あなた達は互いの言葉しか聞きやしないのだから。
辛辣な、けれど確かに優しさの籠る言葉を吐いて周はトントンと階段を上がってきた。静かに紫呉と由弦の横を通り過ぎ、雪也の部屋へと向かう。パタン、と扉が閉じられるのを二人はただ見つめていた。
はぁ、とため息をついたのはどちらだろうか。少しの沈黙の後、紫呉は再び由弦の手を引いて歩く。先程の言葉の通り、彼は周の部屋の扉を開き由弦を中へ入れた。そしてパタン、と扉を閉める。再び、二人きりとなった。シンと静まり返った室内に、由弦の心臓がバクバクと跳ねる。
「……いきなり掴んで悪かったな」
何を言われるのだろうかと身体を縮こまらせるようにして身構えていた由弦は、予想に反した優しい声音に僅か、目を見開いた。そっと紫呉の方へ視線を向ければ、彼はどこか気まずそうにしている。それでも由弦から視線を逸らさないのは、さすが紫呉と言ったところか。
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