965 / 981
第141話
「いや……、大丈夫……」
紫呉は由弦の中で誰よりも落ち着く存在であるはずなのに、今は何を言えば良いのかも、どうすれば良いのかもわからない。物の少ない周の部屋でただただ二人立ち尽くす。重い沈黙はさほど長くはなかったが、それでも由弦にとっても、紫呉にとっても永遠とも思える時間だった。
二人ともが言葉を探し、視線を彷徨わせる。そしてゆっくりと瞼を閉じた紫呉が、何かを決意したかのように目を開いた。
「さっき、雪也に〝諦める〟って言ったよな? お前は、何を諦めるんだ?」
すごく嫌な予感がしたのだと紫呉が唇を噛む。その姿を見て由弦の胸がざわついた。
そんな顔を、させたかったわけじゃない。
「それは……、その……」
紫呉との関係。そう言って良いのだろうかと由弦は迷う。
ともだちにシェアしよう!

