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第142話

 前世は思い出した。それを紫呉も受け止めてくれた。けれど、あの時の関係を紫呉が望んでいないのなら、胸の内を正直に話すことは憚られる。だって、言えば紫呉を責めているみたいだ。あの時と今では環境も何もかも違うというのに、心だけは変わらないでいてくれなんて理不尽でしかないのに、胸の内にある言葉を告げれば、まるで心が変わったことを薄情だと責めているように見える。それは由弦の本意ではないし、紫呉に傷ついてほしくもない。  嫌だ、と誤魔化せもしないのに駄々をこねるように口をつぐむ。だが、いつもは由弦に甘い紫呉も、今この時だけは許してくれなかった。 「言えねぇってんなら、俺が言う。由弦は、俺が雪也のことを好きだってまだ思ってんのか? 違うなら違うって訂正しろ」  雪也が好き。紫呉の声で聞こえると尚更に由弦の心臓が跳ねる。由弦が何も言えないでいると、紫呉が小さく息をついた。

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