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第145話

「由弦、お前は雪也が好きだろ?」  単純な問いかけに由弦は迷うことなく頷く。だって彼は家族も同然なのだ。今も昔も、記憶が戻っていなかった時から、ずっと。 「俺が雪也に抱く好きは、それと変わんねぇよ」  笑ってほしい。幸せになってほしい。側には居たいし見守っていたいけれど、雪也の人生にとっての主役になりたいわけじゃない。 「……なら、聞いていいか?」  由弦が紫呉の瞳を見つめる。 「ああ、この際だ。全部言っちまえよ。周いわく、俺たちは深く考えると碌なことにならねぇらしいからな」  答えられる限りは答えよう。静かに返されたその言葉に、由弦は知らず拳を握った。背に汗が伝い落ちる。震える唇を、それでもと開いた。 「……さっき、雪也を心配するのは、大切にするのは、その場所から連れ出した者の義務だって言ったよな? なら、俺は? 紫呉が俺を大事にしてくれたのは――あんたが俺を連れ出したことへの義務か?」

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