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第153話
「雪也はまだ眠っているのか?」
ベッドの端に腰掛け、ジッと雪也の寝顔を見つめていた周は、唐突に声をかけられてゆっくりと振り向いた。いつの間に開いたのか、扉に背を凭れさせるようにして弥生が立っている。そんな彼にコクリと頷けば、弥生は吐息だけで笑ってゆっくりとベッドに近づいた。
「相変わらずだな。どんな夢を見ているのだか」
弥生と周の視線の先では、雪也がグッスリと眠っている。特に小声で話しているわけでもないというのに、一向に起きる気配はない。口元に微かな笑みを浮かべたまま、規則正しい寝息を零している。
そんな雪也を優しい眼差しで見つめたまま、弥生は口を開いた。
「紫呉に活を入れてくれたようだな。あやつの方が年上だというのに」
全く何をやっているのやら、と弥生の言葉は呆れを含ませているが、その声にさほど呆れも非難の色もない。チラと周が視線を向ければ、それに気づいた弥生は口元に笑みを浮かべて見せた。
「……余計なこと、だったのかもしれない。でも俺は弥生先輩みたいに気は長くない」
紫呉と由弦が両思いだなんて皆知っていた。気づかずにグダグダと意味もない葛藤を繰り広げていたのは本人たちだけ。それでも弥生も優も口出ししようとはしせず、見守るに徹していた。それに気づいていたから、蒼も湊も直接的な言葉は避けていた。そんな無言の連携を周は独断でぶち壊しにいった。誰に相談もせず、そして利他的な意味もない。全ては自分の感情のままに振る舞っただけだ。責められるだろうかと無言で身構えた周に、しかし弥生はクツクツと笑うばかりで、その眼差しに嫌悪さえ滲ませなかった。
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