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第156話

「あの二人はこれで少しは落ち着くだろう。変な方向に走ると大変な二人だが、存外素直な性格だからな。他人の言葉も受け取るし、軌道修正できればそこからの行動も早い。もう心配はいらないだろう」  弥生がそう言うのであれば、それこそが真実なのだろう。周はひとつ頷き、未だ眠り続ける雪也へと視線を向けた。立ち上がり扉の方へ足を進めた弥生がそっと、その様子を見つめる。 「周」  呼べば、ただ静かに周は弥生の方を振り返る。その瞳を弥生はジッと見つめた。 「私は紫呉と由弦がこうなったことを心から喜んでいる。あやつらが心のままに振る舞い、あやつらが幸せになる道を見つけることができたからだ。それが私の願いでもあった。だがな、周。私は何も紫呉と由弦だけにそう願ったわけではない」  瞼を閉じれば途端に蘇る。あの小さな庵に集った、数奇な者達。 「周。私はお前も、お前自身の幸せを掴めることを願っているよ。もちろん、蒼も湊も、雪也もな」  じゃ、蒼が鍋に赤い何かを足す前に降りてこいよ、と恐ろしい一言を残して弥生は部屋を出た。パタンと閉じられた扉を周は静かに見つめる。 (俺自身の、幸せ……)  そして、雪也の幸せ。  なんとも難しい願いだなと小さく息をついて、周は雪也を見つめる。やはり雪也は幸せな夢の中、ただただ微笑んでいた。

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