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七日『ミステリーの日』

 晴日の元気がない。家の鍵をなくしたらしい。不安そうにバッグを漁る晴日の前で、信周は腕組みして、それからくいっと眼鏡を押し上げる仕草をした。   「これは事件の匂いがするな」  「ふむ」と唸って信周はじっと晴日を見つめた。 「ハル、昨日リュックじゃなかった?」 「え? ……あ」  思い出した。午後の授業が休講になって、一度家に帰って来たのだ。バイトに行くときに、ノートや本の入ったバッグを持つのが嫌で、でも中身を出すのも面倒で、普段はあまり使わないリュックを背負って行った……。 「あ!あったぁ」    晴日は晴れ晴れとした顔でリュックのポケットから鍵を取り出して見せた。赤いマスコットが揺れる。   「一件落着だな」 「すっごいノブくん、名推理。ありがと」  晴日の唇が信周の唇をさっと掠めた。晴日は満面の笑みで手を振り、「行ってきまぁす」と元気よく飛び出していった。     【参照◇五月十一日『ご当地キャラの日』】

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