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十日『銭湯の日』
新聞の折り込み広告を見ていた晴日が嬉しそうな声を上げた。
「ノブくん、銭湯ができるんだって。一緒に行こうよ」
「銭湯? 行かない」
「え……なんで?」
信周なら絶対に連れて行ってくれると思ったのに。あっさり却下されて、晴日の声が小さくなる。
「クーポンあるし」
「関係ないよ」
「……」
しゅんとしてしまった晴日の頭を信周は優しくなでた。
「いくら銭湯でも他の男の前で裸になるなんて絶対させないから」
信周が銭湯に行かない理由を聞いて、晴日ははっと顔を上げた。「びっくりさせたくて黙ってたんだけどさ」と信周は続ける。
「今度泊まるとこ、部屋に温泉ついてるんだ。露天風呂」
「え、露天風呂あるの? ほんとぉ?」
途端に晴日の目がきらきらと輝いた。
【参照◇九月二十四日『畳の日』】
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