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八日『ジュニアシェフの日』
信周と晴日のマンションにみつるが遊びに来た。カップ焼きそばが食べたいと言い張るみつるのために晴日が湯を沸かす。
「んー、お……し……に、て……」
たどたどしくソースの袋を読んでいたみつるが、得意げにパッと顔を上げた。
「あーっ、これねえ『おしりにいれてください』だって」
「っ……⁉」
湯を注いでいた晴日はうっかりこぼしそうになり、信周は慌ててみつるの手からソースを取り上げた。袋には『お召し上り直前にいれてください』の文字。
「ぶは、これを……尻に」
「ノブくんっ」
ブハッと噴き出す信周とあわあわする晴日。
「ねえねえ、なにをおしりにいれるの?」
みつるはきょとんとして二人を交互に見上げる。
「それを教えるのはみつるがもうちょっと大きくなってからだな」
「ノブくんてばっ」
晴日の声が裏返る。信周は涼しい顔でみつるにソースを返した。
「みつる、これはな、『おめしあがりちょくぜんにいれてください』って書いてあんだよ」
「えー?」
首を傾げたみつるに、晴日がもう一度説明する。
「あのね、食べるときに入れてねってこと。みっくんが混ぜてみる?」
「うん」
三分待って、湯切りして。ソースを入れた焼きそばをみつるは嬉しそうに混ぜ始める。最後に青のりを振りかければ……。
「おいしい」
「よかったね、みっくん」
ご機嫌に焼きそばを食べるみつるに背を向けて、信周は必死に笑いをこらえていて。晴日はかすかに笑いながら、ソースの袋を見つめている。
【参照◇十二月七日『クリスマスツリーの日』】
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