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第3話

「さあ、オヤツをいただいて、ミルクを飲んだら、お昼寝の時間ですよ」  恭安楽(きょう・あんらく)が優しい笑顔でそう言うと、小敏(しょうびん)煜瑾(いくきん)は、その可愛らしい顔を歪めた。1つ年下の玄紀(げんき)は、まだよく分かっていないのか、ニコニコして食べ残したクッキーを振りまわしている。 「ねんね~ねんね、しゅる~」  けれど、あとの2人は明らかに不満そうだ。 「しない!おひるねはしない!」  そう言うと、勝ち気な小敏は、食べかけのブラウニーを無理やりに口の中いっぱいに詰め込み、いきなり立ち上がって逃げ出した。 「あ!小敏!」  慌てて文維が追いかけるが、相手はすばしっこく、文維に追いかけられることで、また鬼ごっこが始まったというようにはしゃいでいる。 「まあまあ…。さあ、玄紀ちゃんと煜瑾ちゃんは大人しく、お母さまと寝室へ行きましょうね」 「煜瑾も…、おひるねは、したくないのでしゅ…」  不満そうに唇を噛み、煜瑾は俯いてしまう。それを柔らかな眼差しで見つめていた恭安楽は、最後にミルクを飲み干して、ぼんやりしている玄紀を抱き上げた。 「じゃあ、煜瑾ちゃん。玄紀ちゃんがベッドでお昼寝をするのを手伝ってちょうだい。玄紀ちゃんがねんねしたら、寝室でお母さまと一緒に遊びましょうね」 「おかあしゃまと?」  恭安楽の一言に、煜瑾はその目をキラキラさせながら顔を上げた。 「そうですよ。玄紀ちゃんは、もうお(ねむ)さんですからね。あちらで()んねさせてあげましょうね」 「は~い。玄紀、あちらでねんねしましょうね」  玄紀を抱き上げ、煜瑾の手を繋ぎ、恭安楽は寝室へと向かった。 「よ~し!捕まえたっ!」  思わず文維も声を上げ、小さな小敏は長身の文維の小脇に抱えられバタバタした。 「や~!やだ~!おひるね、しない!」  抜け出そうと暴れる従弟(いとこ)をしっかりと抱え込み、文維は寝室に入った。 「静かにしなさい、小敏。玄紀が寝られないじゃないか」  文維に叱られて、小敏はムッとして唇を突き出した。可愛らしいふっくらした唇なだけに、膨れっ面をしても、どこか愛嬌がある。 「さあ、小敏もここへ来て、煜瑾ちゃんと一緒に静かに遊びましょう」 「おばしゃま~」  文維に下ろされて、小敏は急いで恭安楽の元に駆け付けた。  恭安楽は、普段、文維と煜瑾が眠るキングサイズのベッドの隅に座り、駆け寄る小敏を抱き留めた。 「ほら、もう玄紀ちゃんはねんねしたわよ。静かにしてあげましょうね」 「うん」  広いベッドの上にあがって、恭安楽にベタベタしていた煜瑾は、抱き付いた小敏を少し羨ましい目をして見ていた。 「おばしゃま~、だっこして~」  さっきまでの膨れっ面を忘れたように、無邪気で愛らしい笑顔で、小敏は母親代わりの叔母にまとわりついた。 「…おかあしゃま…」  心細そうに煜瑾は恭安楽に声を掛け、ギュッと身を寄せた。 「はいはい。じゃあ、小敏はこちら、煜瑾はこちらにいらっしゃい。静かにするために、ベッドに上がって…、お母さまのお膝の上に頭を乗せて…」  小敏と煜瑾は上手く恭安楽に誘導されて、ベッドの上に寝転がり、クスクス笑っていた。 「昔むかしのお話をしましょうか」 「うん」「はい」  低いトーンで、安楽は寝物語を始め、文維にチラリと視線を送り出て行かせた。  子供たちを母に任せ、ホッと一息ついた文維は、リビングに戻り、食べ散らかしたものを片付け始めた。  その時、気配を感じて文維はハッと振り返った。そこにいたのは平然とした顔をした自身の生母だった。 「はい、みんな寝ましたよ」 「え?もう!」  母の高いスキルに驚き、文維は息子としてではなく、精神科医として何か学ぶべきなのでは無いかと真剣に考え始めていた。

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