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第2話

 翌々日、片親である母親にも恥ずかしくて相談できずに、大誠の家に来てしまった。絢斗が住んでいるマンションから、道路二本分越えた徒歩五分ほどにあるマンションの210号室。大誠の母親が“絢斗くんといっしょに食べて”と用意してくれたサンドイッチと、絢斗の母親が持たせてくれたケーキ店のマドレーヌを食べ、しばらく二人はリビングでテレビゲームをしていた。  そのうちゲームも飽きてゲーム機のスイッチを切った大誠は、28インチテレビのチャンネルを切り替えた。 「今から面白いもん見せたるわ」  脇に置いていた書店の紙袋からケースの無いビデオテープを取り出し、デッキにセットした。二人でソファーに移動し、大誠はリモコンの再生ボタンを押した。 「お父さんが使ってるタンスの、奥の方にあってん」  映像が映し出された。ベッドに腰かけた男女がキスをしている。そのうち男性の方が女性の服を脱がし、ブラジャーをたくし上げて乳房をもみ始めた。  気まずさに、絢斗は目が泳いでしまう。どこを見ればいいのか。迷っているうちに男女とも全裸になり、立っている男性の前にひざまずいた女性はフェラチオを始めた。修正がかかっていない裏ビデオだ。女性のアンダーヘアも丸見えになっている。女性は自分の乳房を揉みながら、顔を前後させる。恥ずかしさに顔を背けた絢斗だが、隣でペニスを出して扱きだした大誠を見て、もっと気まずい思いをする。 「大人はみんな、こういうのん見てチンチン擦って気持ちいいことするねんで」  テレビからは、女性の嬌声が聞こえる。ベッドに横たわり、男性のクンニリングスにあえいでいる。ドアップで女性器が映し出された。ドクン、と絢斗の下半身が反応する。さしてきれいでもなく、初めて見た女性器はグロテスクだが、女の表情、豊満な乳房、股を広げたあられもない姿に興奮してしまう。  絢斗のジッパーが知らない間に下ろされた。中をかき分け、大誠は自分と同じように絢斗のペニスも出した。 「これな、オナニーって言うねん。一昨日、白いのん出たやろ? あの瞬間がめっちゃ気持ちいいねん」  アダルトビデオを見ながら、大誠はオナニーを続ける。ここまでされたら、もうソファーに座ってじっとテレビを見ているだけというわけにはいかない。先日大誠にされた「気持ちいいこと」の記憶が蘇る。絢斗も真似をして、ペニスを擦り始めた。  画面では男性が女性に覆いかぶさり、膣に挿入する。ピストン運動を始め、女性は機械的に、いかにも演技とわかるようなあえぎ声を出す。 「あれ、セックスっていうねん。オナニーよりも気持ちいいらしいで。女のアソコにチンチン入れて擦るねん」  二人で並んで同じようなスピードで擦り、ニチャニチャといやらしい音を立てる。大誠も同じことをしている。ビデオの男女は、もっと恥ずかしいことをしている。次第に絢斗は、羞恥心よりも興奮が勝ってきた。  女性が騎乗位になり、激しく動く。乳房が大きく揺れる。剛毛に覆われたペニスが、女性の動きで見え隠れする。その動きの速さに手の動きを合わせてみると、あたかも自分が挿入しているみたいだ。 「大誠くん…あんなん、してみたい…?」 「うん、俺のクラスにな、オッパイ大きい女子いてるねん。その子とやったら、セックス…してみたい…」  ビデオの女性にその女子を、男性に自分を重ねてみたのか、大誠の息が荒くなった。 「俺…今やったら、絢斗とセックスできるかも」 「えっ?!」  絢斗はソファーの座面に押し倒され、下半身をむき出しにされた。ビデオの男女はまた正常位に戻っていて、ちょうどソファーの二人と同じ形になっている。 「待って、大誠くん! あれ、女はおしっこする所に入れてるやろ? 俺はあんな穴開いてないで!」 「お尻の穴があるやろ? 男同士やったら、そこでするねんて」  絢斗は必死に、首を振る。 「い、嫌や! そんなとこに入れるのは嫌!」 「ほんなら、擦り合わせるだけやったらいいやろ?」  大誠が体を重ねる。腰を動かすと、硬く上を向いたペニスが互いに擦れて刺激になる。だが、挿入の気持ちよさに劣るということは、未経験の二人にもわかっている。足りない刺激を補うため、大誠は絢斗にキスをした。一昨日のように、舌を差し入れ口の中を舐め回す。  アダルトビデオの男性は、女性の顔に射精している。そろそろ大誠も射精したくなる。 「なあ絢斗…あの女みたいに、いやらしい声出して」 「い…いやや」 「頼む、それで興奮したらもう終わるから」  絢斗もそろそろ射精したくなってきた。自分もあんな声を出せば、気分が盛り上がってもっと気持ちよくなるだろうか。 「じゃあ…キ、キスして…。変な声出してる顔、見られたくない」  大誠が勢いよく唇をぶつけてきたため、歯がぶつかった。舌を絡ませ、言葉を発せないがアダルトビデオの女性を真似て絢斗が声を出す。 「んーっ、んんっ、ああっ…うっ」  痛いぐらいにペニスを擦り合わせる。合わせた唇から、絢斗のせつない声が漏れる。  絶頂が近い。大誠はリモコンを握り、巻き戻しした。挿入部分がアップで映っているところで、一時停止をする。 「絢斗…可愛い…好き…。あんなふうにセックスしたい…」  いやらしい言葉が、未熟な前立腺を刺激する。二人はほぼ同時に射精した。独特の匂いがTシャツに染みついてしまった。  大誠が二人のTシャツを、シャワーで洗い流した。おばちゃんに聞かれたら、ジュースこぼしたって言うねんで、と念を押されたが、母親が帰るころにはTシャツはすっかり乾いていた。  そんな二人の秘め事は、大誠が中学生になった時にピタリと無くなった。絢斗は寂しさよりも、安心の方が勝っていた。中学で大誠はサッカー部、その一年後に入学した絢斗は陸上部に入った。グラウンドや廊下で会うこともあったが、大誠は何も言わない。だから絢斗は挨拶もしなかった。それで全てが終わったかのように見えた。

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