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第34話 この美しき世界①
ピエール・プランタジネットの朝は、コーヒーを淹れることからはじまる。
ピエールの住まいは、ニューヨークのマンハッタン中心部にあるマンション45階のペントハウス。
一面ガラス張りのリビングから見下ろす、セントラルパークの緑。
キッチンに行き、コーヒーマシンのスイッチを入れ、メゾンカイザーで買ってきたクロワッサンをオーブンで温める。
ピエールはフランス人なので、クロワッサンが大好きなのだ。
キッチンから見える、マンハッタンの高層ビル群。
このペントハウスは、すべての部屋に大きな窓がついている。
カタッと物音がし、同居人の日本人の男がキッチンにやってくる。
アルマーニのスーツに身を包んだ男に、
「グッモーニン、ムッシューカガミ」
とほほえみかけるピエール。
「コーヒー、飲みますか?」
「……いいな。もらおう」
日本人の男――名前は、鏡 廉人 という。
年齢は32。
学生時代にモデルのアルバイトをしていた経験もある、身長193センチのすらりとしたイケメンだ。
鏡の仕事は、表向きは人材派遣エージェント。
だがその実態は、外国人富裕層向けの性奴隷を発掘し、調教して海外に売りさばくことだった。
瀬名のダミー会社の面接のとき、場を取り仕切っていたのも鏡。
東南アジア、北米、ヨーロッパ、ハワイ、中東、と奴隷発掘の場は世界じゅうに広がっており、鏡は出張で海外を飛び回っていた。
そんな多忙な鏡を支えるのが、秘書のピエール。
ピエールと鏡の出会いは、ピエールが18、鏡が22のとき。
鏡が所属するモデル事務所にピエールが新人として入ってきたのがきっかけだった。
今年28歳になるピエールは、元貴族の由緒ある家柄の出身。
容姿端麗なうえ、国費で日本の国立大学に留学できるほど頭が良く、フランス語はもちろん、英語、ドイツ語、スペイン語、中国語、韓国語、日本語など話すことができる語学の天才だった。
ピエールが留学先に日本を選んだのは、日本のアニメが大好きなオタクだったから。
外ではビジネススーツをビシッと着こなすピエールだが、家にいるときはもっぱらアニメのTシャツばかり着ていた。
大学卒業後、鏡に誘われ、ピエールがニューヨークに来て6年。
同居しているふたりだが、肉体関係はない。
なぜならピエールは――
「あ――KETSUMANKOが起きたようです」
大理石のカウンターに置いたスマホの見守りカメラに映し出された、瀬名の映像を確認したピエールは、
「ふふっ、もうおまんこ全開ポーズをとってますよ。ほんとうに素直なコですね」
とほほえむ。
……ピエールは、ドが100個つくほどの、生粋のサディストだった。
鏡の調教は半分仕事だが、ピエールは心底趣味で、奴隷をいたぶることを楽しむ。
とうぜん、セックスでの役割分担は攻め。
なので同じ攻めである鏡とは、いわば同志であり、肉体関係には結びつかないのだ。
「KETSUMANKOはいつまでニューヨークにいます?」
「……そうだな、あとひとつきくらいだろうか」
ピッ、ピ―ッ、とコーヒーマシンが鳴り、できあがったコーヒーをピエールからもらった鏡は、答える。
「とりあえずここで最後の仕上げをしてから、6月のスレイブドッグ世界大会に出す予定だ。コロナ開けで、久しぶりの国際大会だからな。どこの国もみな気合が入ってるよ」
「あのKETSUMANKOが今回の日本代表なんでしょう? 他の国ももう決まったんですか?」
「そうだな……中国、タイ、ロシア、アメリカ、スペイン、イギリス、フランス、スイス、イタリア、カナダ、ハワイあたりはもう決定した。残りは最後の大詰めだ」
「大会はどこでやるんでしたっけ?」
「アブダビ。アラブ首長国連邦の石油王がスポンサーになってくれている。超一流ホテルを借りきって、世界中の変態セレブを集めて開催する」
――スレイブドッグ大会とは、世界中の優秀な性奴隷を一堂に集め、順位をつける性奴隷の国際大会。
美しさだけでなく、奴隷としての従順さ、どんな理不尽な命令にも耐えられる忍耐力などが選考基準になる。
「アブダビかぁ! アラビアンナイトの世界だ。KETSUMANKOもきっと喜びますね。……ふふっ、おまんこクパクパしてる。きっと尿道もパンパンだろうに。どこまで従順なコなんでしょう」
ピエールのスマホには、貞操帯以外なにもつけていない裸でガニ股になり、部屋のまんなかで自ら尻穴を両手で押し拡げる瀬名の姿が映っていた。
瀬名の部屋に設置された見守りカメラの映像。
鏡とピエールのスマホで、365日24時間、瀬名は監視されている。
朝起きたらすぐ、部屋のドアに尻を向け、自分で尻穴を拡げ、ピエールか鏡が来るのを待つこと。
その命令を瀬名は固く守っていた。
「……アブダビにはピエール、おまえも連れていく。奴隷の調教を手伝ってもらいたい」
「うわっ。ほんとうですか? 嬉しい♡」
「今夜もあのバーでKETSUMANKOショーだ。内容を考えておいてくれ――ごちそうさま」
コーヒーを飲みほした鏡は、キッチンを出ていく。
「さて――と。そろそろKETSUMANKOの様子を見に行くかな」
バナナスタンドにかけてあったバナナを手に、鼻歌を歌いながら、瀬名の部屋に向かうピエール。
「グッモーニン、KETSUMANKO」
ピエールは、ばたんっ、と勢いよく瀬名の部屋の扉を開ける。
とたん、ピクッ、と脚を緊張させた瀬名は、
「おっ、おはようございますっ、ピエール様ッ!」
と従順に頭を下げる。
大きく突き出した尻の中心にあるケツ穴が、クパッ、クパッ、とあいさつするように拡がっていった……。
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