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40 side海 『いつか王子さまが』
あれから何となく、榎井を避けてしまっている。忙しいと言い訳して、長いこと話すのを避けていた。
榎井は何か言いたげな様子だったが、追求はしてこなかった。多分、マリナのことを語れる相手が居ないのが寂しいのだろう。
俺の方は、どうして良いか解らないまま、気持ちが宙ぶらりんだ。榎井を好きだと自覚したものの、なんの行動にも移せない。そして何も出来ない自分に、また自己嫌悪する。
『いつか王子さまが』なんて願っている、お姫様のようだ。いつか王子さまが助けに来てくれるまで、何も出来ずに待っているお姫様。自分ではなにも変えられず、ただ何かが変わるのを、誰かが変えるのを待っている。
それが、嫌だったはずなのに。
(……白雪姫か)
『いつか王子さまが』というのは、ディズニーの白雪姫の挿入歌である。現代のヒロインならば、白馬の王子様を待ったりしないだろうが、おとぎ話が原作だ。だからこそ、白雪姫は白馬の王子様を待つ。
白雪姫は、高校の時に演劇でやった演目だ。あの頃から、俺はちっとも変わらない。あの頃から、勇気がないままだ。
「……」
少し、解らなくなってしまった。楽しかったはずの活動も。寮生活も。
「……寮、出た方が良いのかな……」
ポツリ、呟く。
もともと、次の部屋が決まるまでの繋ぎのつもりだった。寮で配信なんて、長くやるのは難しい。いつかばれてしまうリスクを考えれば、寮を出るべきなのだ。
でも。
「俺、配信したいのかな……」
嘘を吐きたくなくて、マリナという存在を生んだはずなのに。榎井が観ていると、知っているのに。
俺はまだ、配信を続けられるのだろうか。
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