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おまけ 同期飲み会

「鍋がやりたーい!」  という渡瀬の一言で、同期五人で鍋を囲むことになった。とはいえ、外に食いに行こうと言う話ではない。良輔の部屋に集まって、みんなで鍋を囲むのだ。元々同期組の間では冬の定番行事だったのだが、今年は何故か集まって鍋をする機会がなかった。渡瀬が言い出さなければ多分、今年はやらなかっただろう。 「鍋にしては季節が遅いけど」 「今は夏だって平気だろ」  隠岐が控えめに突っ込むのに、星嶋が肩を竦める。まあ、辛い鍋とかは夏でもやるようになったと思う。  具材をそれぞれ持ち寄って、下ごしらえと味付けは渡瀬と良輔が殆ど担当してくれた。二人は最近、自炊もするらしく、手際が良い。 「榎井って料理する?」 「いや。隠岐は一人暮らししてただろ?」 「まあ……でも本当に簡単なものしか出来ないよ」  どうやら家事スキルは低い俺たちである。もしかしていずれ二人で暮らすようになったら、出来合いのものばかり並べることになるんだろうか。それは隠岐の健康のためにもどうだろう? 「星嶋は料理はするんだっけ?」 「俺はやれば出来るぞ。一緒にすんな」  あれ。仲間だと思ったが違ったらしい。星嶋は既にビールを開けていた。渡瀬たちを待つ気はないらしい。俺と隠岐は一応待っている。多分突っ込んだら「味見だ」って言われるんだろうな。 「渡瀬、料理を始めるとしたら最初は何を作るべきだ?」  ここは経験者に聞いてみよう。そう思い、食材を切っている背中に声を掛ける。 「榎井はまず、レタスとほうれん草の区別がつくようになった方が良いんじゃないの?」 「真っ当な意見!」  呆れた渡瀬の言葉に、思わず頷く。俺の中で緑の葉っぱは全部緑の葉っぱである。ちなみに野菜の名前も詳しくない。大根、人参、玉ねぎなんてのは解ってはいるけれど、深く考えないで生きて来た。高いブドウのことは解るけどな。 「ちょっと榎井の手料理が怖くなってきたよ……」  隣で可愛い恋人が怯えている。俺は隠岐の手料理も食べてみたいし、食べさせてみたい。あまり怖がらないで欲しい。ちゃんとクックポッドを見て美味しく作るから。 「そのうち俺がチョコバナナを作って食べさせてやるからな」 「俺のバナナを隠岐に食わせる? 下ネタ?」 「おい」  渡瀬の発言に良輔が頭をひっぱたく。 「げほっ、げほっ!」 「っ! ちょ、ちょっと!」  噎せてしまった。なんてことを言うんだ。隠岐も顔が真っ赤だ。  しかも俺、マリナちゃんのちょっとエッチなイラストを描いたのを思い出してしまった。あのイラスト、どこかに隠しておかないと。隠岐に見られたら軽蔑の目で見られてしまう。 「アホなこと言ってんな」  星嶋の言葉に、なんとか落ち着きを取り戻す。  全く、下品な話ばっかりしやがって。  そう言えば隠岐に口でしたことも、口でされたこともなかったな。舐めたりしたら嫌がられるだろうか。  チラ、隠岐を見る。何故かバッチリ目が合って、気まずくて顔を背けた。耳が、頬が熱い。 (可愛いな)  付き合ってしばらくたつが、いまだに恋人が可愛い件。  こっそり手を伸ばし、見えないところで隠岐の手を握りしめる。 「――っ」  隠岐が、僅かに視線を向けた。何でもないふりを装って、指先を絡め合う。  ああ、時間が止まってしまえば良いのに。  そう思いかけたのを、渡瀬の声が引き戻す。 「出来たよー。ごまたっぷり豆乳鍋! 締めはリゾットにするかんね!」 「おお」 「美味しそう!」  さりげなく、指先が離れる。名残惜しいが、仕方がない。  隠岐もそう思っていたのか、視線が絡み合った。思わず、笑い合う。 「じゃあ、飲もうぜ! 日本酒が良い人~」 「はーい」 「俺も」 「俺はビール」  わいわいと、鍋を囲みながら酒が空いていく。楽しそうに笑う隠岐の横顔を眺め、フッと笑みをこぼした。 (二人きりも良いけど――)  最初は、隠岐が同期組に入るのが、嫌だったんだっけ。今じゃ考えられないし、隠岐も楽しそうだ。  隠岐の笑顔が見られるなら、友人たちと過ごすもの、悪くないなと思った。

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