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三人の囚人
「それよりさ。医務室に行きたいんでしょ?体触った時、傷があった」
やはり気づかれていたようだ。
理解していたからこそ、キスと乳首いじりだけしてきたのだろう。
そんなところにも、彼の優しさを感じてしまう。
小型ナイフで脅されていたはずなのに、やっぱり変だ。
病気なのかな?
「しかも医務室周辺に、囚人が三人いるとはね。少し話をしてくる。ここで待ってて」
僕が無言で頷くと、アルマは三人の方へ歩みを進めた。
壁から顔を覗かせると、そこにはオレンジ色の囚人服を着ている男女が医務室に向かっている最中。
一人は緑の髪に三つ編みをした長身の女性で、もう一人は黒い肌をした右目に包帯を巻いている僕と同じくらいの身長のお兄さん。
最後は屈強の体を持つ黒髪に紫の瞳の男で、三人揃って気を失っている大柄の男性を担いでいた。
女性がこんなところにいるんだなと思ったものの、それより衝撃的なことに気づく。
大柄の男は、さっき僕の心臓をえぐろうとしたあいつではないか!
恐怖で顔が青ざめてしまった。
壁から顔を下げ、一人縮こまって身震いする。
また殺されたらどうしよう。
しかし会話だけは聞こえてくるので、一応耳を傾けておく。
「なんで更衣室に倒れていたのかな?看守にやられたのかしら?」
「そうっすよ。それにしかありえないっす」
「でも、ガルドの弟リークを勝手に運んで良かったのかしら。怒らせたら最初に言い出したダニエルのせいね」
「はぁー?なんで俺のせいになるんだよ!姉貴だって運んでいるんだから、同じだろうが!」
「うるさいわね!ごちゃごちゃいうなよ、バカ!」
「そっちだってうるさいやい!」
低い声と高い声が喧嘩を始めて、イライラが立ち込めてくる。
もう一人の大柄で屈強な男が慰めているが、それも二人で一喝していた。
囚人同士の喧嘩だから、尚更緊張感が高まっていく。
殺し合いでもするのではないかと思えば、あの時のことを思い出して気分が悪くなった。
殺人なんかしちゃダメだ。
そんなことをしたら人間としての倫理観が消え失せてしまう。
「別にいいじゃないか。もう倫理観なんて既に崩れているんだからさ」
また頭に響く声か。
そんなわけないだろ。
あれは犯罪者に言われてやっただけだ。
僕は何も悪くない。
どっか行けよ。
心の中で毒を吐きながら、壁から慎重に顔を出す。
すでに僕を殺そうとしたリークと、大柄の男がいなくなっていた。
どうやら医務室に入ったようだ。
アルマは廊下にいる二人と話している。
彼なら脅すこともせずに、彼らを撤退させてくれそうだ。
アルマのことを少しは理解しているので、直感的にそう感じた。
「いやー、まさかフィルの恋人だと思ってなかったぜ。がっかり」
「元恋人よ。こいつとは高校の時に別れた」
ダニエルは肩を落として落胆し、フィルは呆れた表情と口調で話した。
元恋人ということはアルマと付き合っていたってことだよね。
まあ、彼は見た目も行動もイケメンだから普通だな。
なんでこんなに胸がズキズキするんだろう。
そんなことを考えていた次の瞬間、目を見張る言葉をアルマが言う。
背中しか見えないので、表情はわからない。
「それにしても相変わらず女装しているんだね。胸も作ってるみたいだし」
「別にいいでしょ。胸くらい作っても!」
「ま、個人の好きだから別に気にしてない。まさか刑務所で会うなんてね」
胸を作っているってまさか、この人、男?
ここ一番の衝撃を知って、驚愕。
女の子にしか見えないくらい、可愛いじゃないか。
アルマは可愛い子が好きなんだね。
なんかショックすぎて、呆れて何も言えなくなってしまった。
僕は全然可愛くないし、どこにでもいる普通のむさい男だ。
彼に張り合うのだろうか。
少し疑問に感じてしまった。
「実はさ。俺たち、いまつきあって…」
ダニエルが鼻の下を人差し指でさすって自慢しようとしたら、照れ隠しなのかフィルは彼の頭を平手でチョップして誤魔化した。
頬を赤らめている。
「これ以上言うな、バカ!ってごめんなさいね。イチャイチャしてるわけじゃないわ。お友達、体調不良なんでしょ。安静にねって伝えておいて」
彼の表情を見て何かに気がついたのか、汗を散らしながら青ざめた顔で言い訳した。
どんな表情しているのだろうか。
しかも僕のことを「怪我をしている」とストレートに言うのではなく、体調不良と言って説得させたようだ。
もし僕が怪我していることに気づかれたら、看守だってバレるから。
囚人は例外を除いて怪我しないことがほとんど。
アルマくん、優しいな。
「ダニエル、行くわよ」
「えっ、ちょっと待てよ!白人の言うことを聞くのか?」
「いいから、彼を怒らせちゃダメよ。めんどくさいことになるわ」
フィルはダニエルの右手を握りしめて、足を引きずったまま来た方向の廊下を進んでいく。
これで残るは中にいる男一人だけ。
あとは彼にお願いしておけばオッケー。
この場所で待機していれば、あの男も医務室から出てくるだろう。
アルマが医務室へ入り、しばらく経った。
もう一人の大柄な囚人は、引き戸を開け走って他の二人が向かった方へ走る。
こちらに来なかったのは幸いだ。
「来なよ。もう誰もいない」
「う、うん……」
曖昧に頷いた。
なんの話をしていたのか気になったので、試しに疑心暗鬼のまま尋ねる。
しかし「世間話してたんだ」と澄まし顔で言われ、詳細を明かすことはなかった。
担いでいたリークという男は、簡単に目を覚さないだろう。
だがもしこちらにまた襲いかかってきたらどうしようと考えれば、脚が震えて一歩進むのもツラく感じてしまう。
「大丈夫。俺がついてる」
「そうだね」
歩くのが遅かったらしく、彼に肩を担がれおんぶされてしまった。
突然の出来事に目を見開いて暴れてみたが、彼に怒られ悲しい気持ちになる。
彼曰く「くっついていれば、どうな悪党でも怖くない。俺が守ってやる」とのこと。
僕は「そういうことは女の子にいいなよ」と、頬を膨らませながら返すとアルマは無言を貫いていた。
頼もしい理想的な男だ。
それに彼の背中は暖かくて心地いいし、落ち着く。
子供の頃と同じだ。
他の子たちはそう思うのだろうか。
バクバクと脈打つ激しい心臓音が聞こえて、こちらも顔を赤らめてしまう。
僕たちは両思いだったのか。
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