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入所初日 3

 桶一杯に湯をため、少年の視線よりも低くなるようにしゃがんで、彼の足元に桶を置いた。少年が初めて、自発的に視線を動かす。無論見つめたのは桶である。 「冷たくないし、熱くもない。触って確かめてみて」 そう言って、少しの湯をすくって彼の手にぴちゃりとかける。彼は一瞬手を引っ込めるような動作をしかけたが、そのまま手に湯をかけられ、そうして黙っていた。頻繁にまばたきが繰り返される。 「大丈夫だろ? このまま、ズボン脱いで汚れたの綺麗にするからな。怖いことないからな」 そう言ってから、少年のズボンに手をかけた。少年のお尻を持ち上げてゆっくりパンツごと脱がしてやると、頭の上から聞いたことのない息遣いが聞こえた。 「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ……」 上を見上げると、少年は表情一つ変えずに鼻で荒く呼吸をしていた。何度も胸を上下させるそれは、過呼吸の前兆のように思えた。俺は手早く少年の下半身に湯をかけて、浴室の入り口に置いていたタオルをぬるま湯で濡らし下半身を拭いた。 「ふぅ、ふぅ、ふぅ」 「怖くない、怖くないぞ。大丈夫、大丈夫……」 そう声をかけるが、おそらく気休めにもなっていない。少年の耳に届いているかも怪しかった。  一通り下半身を拭き終えたら、すぐに乾いたタオルで拭いて彼を立たせた。そして替えのパンツとズボンを履かせてやると、少しずつだが、呼吸が安定してきた。廊下に出るとさらに体のこわばりも抜けて、また人形のように無を纏う。  部屋への道を歩きながら、俺は浴室での少年の様子を思い出していた。  少年は、主に性的虐待を受けていたのだろう。彼がいたという「店」では、人身売買、売春、ストレス商法が行われていたが、彼はその中で売春をやらされていたのかもしれない。  こんなに小さく幼い子供を。浴室に入り体を洗うだけであんなに怯えるようになるまで痛めつけて。  そう思うと、顔も知らない誰かに対してやりきれない怒りを覚えた。 無意識に手に力がこもったその時、きゅっと手に微かな力を感じる。ハッとして力を緩め、隣を歩く少年を見るが、彼は先ほどと同様、斜め下を向いて無表情に歩を進めるのみだった。

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