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入所初日 4
悠生に任せた部屋は綺麗に掃除されており、トレイは部屋の真ん中に移動していた。俺は少年をゆっくり真ん中に連れて行き、トレイの前に座らせた。
「これが今日のお昼ご飯な。おかゆと、煮物と、お茶。ゆっくりでいいし、無理して全部食べようとしなくてもいいから。美味しく味わって」
少年は俯いたまま。俺は後ずさりして、そのまま部屋を出た。
それから向かったのはひなどり棟の事務室だ。中に入ると、今日入所した子供達に付き添った他の職員らもここにいた。彼らは皆一か所に密集しており、熱心に何かを見つめていた。俺もそこに加わる。
「やっぱり、食べれないですよね」
春広が落胆を滲ませた声でつぶやく。
「食欲が無いってのと、これまで出されたもの全部が食べられるものとは限らなかっただろうからな」
「お腹鳴ってる子の中には、少し興味を持ってる子もいますね」
職員が見つめているのは、ひなどり棟の各部屋に様子が映し出されているモニターである。ひなどり棟はつばめ棟には無いカメラが各部屋に設置されており、部屋内で何か異変があったときにすぐに気がつけるようになっている。ひなどり棟に入る子供はひどく不安定なことが多く、最悪の場合は自殺を試みることもある。つばめ棟に入れるくらい回復するとその心配もだいぶ無くなるが、ひなどり棟は常時気が抜けない。彼らの一瞬の変化も、見逃すことは許されない。
俺は一番端に映っている少年を確認した。彼もまた、他の子と同様食べようとはしていない。だが、同じ「食べない」という行為でも、彼の場合は動きそのものも無く停止しているのが気になる。他の子供は顔を動かしたり手を動かしたりするが、あの少年は微動だにしないのだ。浴室では自発的にー強い恐怖のためだろうがー動けたので、精神的な理由から動かないのだろうが、とても気がかりである。
「食事は一時間後には一度回収するようにお願いします。スプーンを飲み込もうとしても危ないので」
他の職員にそう声をかけて、俺は事務室を出た。一度本館に戻って事務仕事をしよう、そう思いながら、頭に浮かぶのはあの少年の姿だった。
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