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大丈夫 2

 もぐもぐと口を動かして食べる様を見せていると、わずかにだが、少年の目がこちらを向いた。何かを探るような目だったが、俺は逸らすことはせずに見つめ返した。  静かな時間が流れていく。俺と少年二人だけの、ゆっくりとした時間。俺に不審なところが無いかを精一杯探る少年をそのまま受け入れて、好きなだけ探らせる。彼が安心できるまで、この人は警戒しなくても良い人間だと、少年が認定してくれるまで。俺は待ち続ける。    ふと、少年の口が動いた。唇を閉じたまま、なにかを咀嚼しているような動きを見せる。それが俺の真似だと気が付いたとき、胸にぱぁっと温かいものが弾けた。それは涙が出るほど嬉しくて、また安心するものだった。  無意識か、意識的にか。わからないが、少年は反応した。それも、マイナスの意味合いではなく。その事実だけがここにある。 「ほら、食べてみような」 俺は少年ににじり寄り、少年用のスプーンでおかゆをほんの少し掬ってもぐもぐと動いている彼の口元に寄せた。 「あーん」 そう言いながら自分の口も大きく開ける。すると、少年は俺の目を見つめたまま、わずかに、数ミリだけ口を開いた。スプーンをその狭い間に入れてやると、もう少しだけ開く。そのままおかゆをするりと口に入れてやると、少年はもぐもぐと大袈裟に噛んでみせた。その際、口を閉じない少年の口からはくちゃくちゃと音が鳴った。閉じることができないのか、そうやって食べるよう躾けられていまのか。 「偉いな、いい子だな……」 それでも、食べてくれたことが何より嬉しかった。 そのまま撫でて抱きしめてやりたい衝動を抑え、俺はそれだけを口にした。  少年はおかゆをよく噛んだ。そこまで噛む必要のないものだが、もしかしたらこの後どうすれば良いのか分からないのかもしれないと思い、喉を指さして「ごっくんってするよ」と見せてやると、すぐに飲み込んだ。 「どう? 美味しかったか?」 「……」 「ここのご飯はなんでも美味しいんだよ。美味しくて、毎日次のご飯が楽しみになる。君もちゃんと、美味しいって思えるようになるからな」 俺が、「美味しい」を教えてあげるから。  それから数回おかゆを食べさせてやると、少年は口を開かなくなった。もうお腹いっぱいということだろう。全部を食べきることはできなかったが、これも大きな一歩だ。  この子は大丈夫。きっと大丈夫。そう予感させられた日だった。

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