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新しい日常 3

 朝食の片づけを手伝ってから、俺はその間もそわそわと近くをうろついていた直、奏斗、咲ちゃんと共に教室へ赴いた。  今日のつばめ棟は特に予定が無いので、教室では子供達がそれぞれ自分の作業に取り掛かっていた。  作業といっても、なにか仕事があるわけではなく、その子自身がやりたいことをやるだけだ。多くのメルヘンには内から湧き上がる創作意欲のようなものがあり、それを制限されるとストレスが溜まりやすいという特徴がある。だから、その子の気持ちが向くままに材料を用意してやり、その子の好きなように何かを作らせる。それがメルヘンの精神的な健康にも、精神の成熟にもとても重要なのだ。  直、奏斗、咲ちゃんにもそれぞれ創作途中のものがあるのだが、今日はとにかくお話がしたいらしい。3人は俺の膝に乗っかったり寄りかかったりしながら、俺がいなかった間のことをそれぞれ楽しそうに話し出した。  満足するまでひとしきり話し終えると、直は眠り、奏斗と咲ちゃんは「じゃあね!」と言ってテーブルに向かっていった。どうやらこれから作業をするらしい。  それを微笑ましく見送ったあと、俺は膝の上で寝てしまった直を見やった。すやすやと眠る彼は今年で15歳だ。そうとは見えない幼いつくりを見ていると、思わず甘やかしてこのまま膝に寝かせていてやりたいと思う。  だが、つばめ棟はひなどり棟とは違う。  ひなどり棟が子供1人に職員1人の対応であるのに対し、つばめ棟は子供数人に対して職員1人という配置だ。それは、つばめ棟に施設卒園の前段階の役割があるからである。  施設は基本的に18歳で卒園だ。しかし、親を持たず、背景として虐待や育児放棄をされてきたメルヘンが突然独り立ちすることはほぼ不可能である。  そのため、卒園とはつまり里親を決めその里親と生活することを指す。メルヘンは里親と共に生活する中で本当の社会生活を知り、必要があれば施設の介入によってその後の就職などを果たしていくのだ。  だから、つばめ棟の子供を甘やかすことはあまりない。確かにリアルの同じ歳の子供への対応に比べたらだいぶ柔らかい物言いになっているかもしれないが、メルヘンとリアルを比べることは出来ない。甘やかしているというより、伝え方の違いがあるだけだ。職員は、つばめ棟の子供が一人の職員に執着するという状況が起きないように配慮する必要がある。  俺は直の体を少しずつずらして横抱きにし、そのまま教室の隅のほうに運んだ。その近くのテーブルで他の子供を見ていた職員に直を寝かせておくことを伝えてから、教室を後にした。

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