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新しい日常 8
陽は朝になるまで起きることは無かった。ひとまずパニックを乗り越えたことに安堵し、俺は朝の支度をした。朝ごはんの前に陽を起こすと、陽はきょろきょろとあたりを見回して、そこが自分の部屋でないことに首を傾げた。
「おはよう。よく眠れた?」
「さえ、じませんせい? おはよう」
「うん、大丈夫そうだな。陽、昨日具合悪そうだったからこっちで寝たんだよ。さ、これから朝ごはんだぞ。起きようか」
「うん」
陽の手を引いてのばらまで連れて行き、今日の服を出してやるとてきぱきと着替え始めた。同室の子供達は少々警戒しながら陽を見ていたが、声をかけてやるといつもの調子に戻り、さっそく今日の朝ごはんに何が出るかを予想しはじめた。
のばらの部屋の子を食堂まで連れて行き、後のことは担当の職員に任せて本館に向かった。つばめ棟を出た瞬間、無意識にふわぁとあくびが出る。眠っていないのだから当たり前だ。頭もどこかぼんやりしていて、まるで今から仕事開始という気がしない。昨日の延長のようだ。
職員室に入り席についてからもあくびは止まらない。それを一番に指摘してきたのは、赤坂春広だった。
「冴島さん、眠そうですね?」
「あぁ、昨日宿直で、いろいろあったから」
そういう間にも、あくびが一つ零れる。
「寝不足で大丈夫ですか? 夏ですし、今日はこのあと帰ったほうがいいのでは?」
「うーん、でも、人手不足だしなぁ……」
施設は万年人手不足だ。職員は多ければ多いほど良いというのが実状である。帰る気が無いと見たのか、春広はそれ以上帰宅を勧めてこなかった。そのうちに、朝礼が始まる。
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