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新しい日常 11

 午前中はいつも通りつばめ棟で子供達と遊んだり話したりして過ごした。午後は学習室で、桜や中学校に通う予定の子供達に勉強を教えた。子供達と話していると、余計なことを考えなくて済む。彼らのエネルギーは大人達をどんどん引っ張っていって、休む暇を与えてくれない。そうして時に振り回されるのが、心地良かったりもするのだ。 「ここは、分数にして解くと上手くいくよ」 「分数……あぁ、そっかぁー」  来年中学校に入学予定の男の子は、アドバイスを聞いてそれまで止まっていた鉛筆をまた動かし始めた。それを確認してから、今度はその隣の子が練習している漢字を確認する。見本を見ながら書いても、どうしてか間違ってしまうことがある。それを指摘したり、より大きな見本の字を書いてやると、上手く書けるようになったりする。うん、大丈夫そうだ。 「冴島先生―」  学習室の扉を開けてきたのは悠生だった。 「どうした?」 「ちょっと雪君のこと見ててもらえないかと思いまして。今、俺が担当してた里親の方から連絡があって、手が離せないんです。多分1時間くらいで終わると思うので、それまでお願いできますかね?」 「わかった」 「ありがとうございます」 悠生はそれだけ言うと走って行ってしまった。振り返り、学習室の子達を確認すると、彼らは一様にこちらの様子を伺っていた。きょとんとしているその様子が可愛らしくて、自然と口元が緩む。 「ごめん、先生、ちょっとひなどり棟に行かなきゃいけなくなっちゃったんだ。ここには違う先生を呼ぶから、それまで勉強頑張っててな」 「えー、先生が良いのに!」  がたんっと音を立てて立ち上がったのは、算数を解いていた男の子だ。不満気な顔で、彼はこちらに近づいてくる。そのまま俺に体当たりした彼は、腹に頭をぐりぐりと押し付けた。子供だが、力はそれなりに強い。 「戻ってきたらまた見てやるから」 「えー……」 腹からくぐもった声が聞こえる。両足抱きこまれ、身動きが取れなくなった。 「こーら。先生も忙しいんだからわがまま言っちゃダメでしょ」 「ぐぇ」  男の子の首根っこを掴んで引きはがしたのは、ここで一番年上の桜だ。桜は俺を見ると、にこっと笑ってみせた。 「ここは私にまかせて、先生行ってきて。小学校の内容なら私だって教えられるから」 「ありがとう」 面倒見の良い桜になら、まかせても安心だ。俺は学習室を出てひなどり棟へ向かった。  久しぶりに入るひなどり棟に、俺は柄にもなく緊張した。それもこれも幸月のことを考えているからだ。この建物に入れば幸月に会えるかも、そんなことを考えてしまうからだ。  事務室で簡単に手続きをして鍵をもらう。そしてから向かいにある雪君の部屋へ、ノックはせずに静かに入った。

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