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新しい日常 13
「こ、れ。塔」
雪君が、塔の絵を指し示す。塔の上にはお姫様がいて、その下には王子様がいた。
「僕作ってた塔、これ。中に、お姫様いるの」
「うんうん、よくわかる」
「お姫様、王子様が助けに来るの。めでたし、めでたし?」
雪君は両の手のひらを合わせて、こてんと首を傾げた。しっかりと俺を捉えるその瞳に、恐怖はもうない。雪君の成長は著しいようだ。
「そう、めでたしめでたし。お姫様と王子様は幸せに暮らすんだよ」
「うー……」
雪君は絵本に視線を戻すと、塔の絵をさわさわと撫でた。そうしてから、王子様をペタペタと触る。また俺を見上げた。
「僕、王子様……」
「雪君は王子様になりたい? かっこいいよな」
雪君はこくんと頷く。
「王子様、かっこいい。お姫様、は、可愛い。僕、どっちも好き」
「うん、どっちも素敵だね」
雪君は唐突に立ち上がると、また部屋の右側へ走っていった。そして戻ってきたときには、その手にたくさんの絵本を抱えていた。ドスンっとそれらの絵本を俺の前に置くと、雪君は俺の腕に体重をかけて、こう言った。
「絵本、読んで、くだ、さい」
驚いた。雪君が、短期間でここまで人に慣れていることに。誰かに自分の気持ちを伝えたり、お願いしたりすることがもう出来ている。きっとこの子の本質は、こうして人懐っこく甘える純真さなのだろう。そしてこれが、悠生との関わりによって表に出てきているのかもしれない。
「うんっ、わかった。たくさん読もう」
俺は、絵本の一ページ目を開いた。
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