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介と夜 2
共に本館へ戻る最中、先に口を開いたのは介だった。
「良かったね、幸月君。桐也の担当に戻って」
「あぁ」
「ずっと心配してたでしょ。桐也の様子、なんかおかしかったし」
「そんなにわかりやすかったか?」
「とっても」
そう言って介はふふっと笑った。花見さんに見破られていたことも思い出し、恥ずかしくなる。
「施設長、申し訳ないって言ってたよ。自分のミスだってね。後で謝罪か何かあるんじゃない?」
「別にいいのにな。あの時幸月の発話や反応が薄かったのは事実だし」
「それでもね。実際今幸月君の状態はあまり良くないのは、あの時桐也を担当から外したからなんだから」
「うーん……」
介はあの時俺を担当から外すことに反対していたから、尚更施設長を責めたい気持ちがあるのだろう。
しかし俺は、そんな気にはなれなかった。確かにミスは許されないのだろうが、ミスを無くせないことも事実だ。ミスによって引き起こされた事象をどう解決するか、そこまでがこの仕事だとそう思う。
曖昧な俺の反応を、介は笑った。
「やっぱり桐也は優しいね。大学の頃とおんなじ」
「大学の頃?」
何かあっただろうか。
介は俺を見てにこりと笑うと、立ち止まった。
「これからちょっと話そうよ。お互い、最近あんまり話せてなかったでしょ」
介の提案に少し驚きつつも、俺は無意識に頷いていた。
医務室に入るのは久しぶりだった。つばめ棟職員ならまだしも、ひなどり棟担当時はほとんどここに来ない。医療部がひなどり棟に赴くのが基本だからだ。
介は部屋の中央にあるソファを俺に勧めた。ソファには可愛らしいぬいぐるみが所狭しと置いてあり、そこに大人の男が座ると少し異質な光景になる。しかしそれも、つばめの子供達が訪れた時に萎縮してしまわないための配慮だ。
介はグラスに冷たい麦茶を注ぎ、テーブルに差し出した。そして向かいのソファに座る。それを認めてから、俺は先程の話題を掘り返した。
「で、大学の頃と同じってどういうこと?」
早速麦茶で喉を潤していた介は、「あぁ」と言って笑った。
「そのまんまだよ。大学の時もさ、桐也優しかったなって。ほら、大学生の時、俺たちメルヘンの児童養護施設を支援する団体に入ってたじゃない」
「そうだな」
俺と介は歳の違う幼馴染であり、そして大学の同期でもあった。それは介が2年浪人した末に医学部に入学したからだ。学部こそ違ったが同じ団体に所属して、そこでも変わらず仲が良かった。
「そこで、地域の施設にボランティアに行こうってなった時。学生の1人が企画した活動で、その施設に入ってた児童が軽くパニックになっちゃったの、覚えてる?」
そこまで言われて、やっと何を言わんとしているのかわかった。
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