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初めての交流 4

 幸月の背を撫でながら子供達の様子を確認する。  一班が担当する子供達は、おおむね報告通りの傾向が見てとれた。  雪くんはマイペース、あゆみちゃんは引っ込み思案気味だが、例えば雪くんに唐突に話しかけられても少しなら答えられる。  文ちゃんと若葉くんはいつも一緒にいて、若葉くんが部屋を走り回るのに文ちゃんが黙って着いていく感じだ。そしてそれを追いかける春広。一番はしゃいでるグループで、見ていて思わず笑いが漏れる。    他の子供達も、大人しい子もいればよく喋る子もいる。ひなどり棟にいる子供の多くは、育った環境の過酷さも相まって幼い言動をする子供が多いが、年相応に落ち着いて、絵本ではなく小学校高学年が読むような児童書を読んでいる子もいた。    他の職員からの声掛けな多少怯える子もいるものの、皆経過は良好に見える。  俺は幸月に視線を戻した。幸月は腕の中で小さく丸まっていた。ここに来てからずっと怯えている。部屋に全ての児童と職員が集まってから30分以上経過しているが、依然として変わりはない。    この様子だと、「みんなで食事」は無理そうだ。  幸月を刺激しないように一定のリズムで背中を叩きながら外を眺めていると、ふと近くに気配を感じた。振り向くと、そこには雪くんが立っていた。折り紙を輪っかにしたものをいくつも繋げて作ったネックレスを首にかけ、右手にもまた同じものを持っている。 「雪くんは折り紙が好きなんだなー」  そう声をかけるが、雪くんは反応しない。どうやら彼の興味は俺ではなく、腕の中の幸月にあるようだった。  悠生はどこにいるだろうと探すと、少し離れたところからこちらの様子を伺っている。何か起きた時すぐ来れるようにはしているみたいだ。  雪くんはしゃがみ、そろりそろりと幸月に近づいた。幸月は顔を隠しているので、雪くんが近づいていることに気がついているかはわからない。 「ねぇ」  雪くんが、確かに幸月に向かって声をかけた。大袈裟に幸月の肩が跳ねる。俺は変わらず幸月の背中を叩きながら、2人の様子を観察していた。 「なんでねてるの?」 「……」 「おきてる?」 「……」 「おなまぇ、なんていうの?」 「……ふ、ぅ」 「ふ?」 過呼吸の前兆だった。 「雪くん、ごめんな。幸月、ちょっと今眠いみたいだから、寝かせてくるな」  立ち上がりながらそう声をかけ、悠生に目配せする。目が合った瞬間に彼は動き出していた。 「雪くん、こっちで遊ぼ。歩ちゃんの折り紙すごく上手だぞ」 「おりがみ!」  悠生の言葉で雪くんの興味が逸れた隙に幸月を部屋の外に連れて行った。 「ふぅ、ふぅ、ふぅ、ふぅ……」  本格的な過呼吸が始まり、幸月の体に力が入る。他の子供に見られる前に部屋から出られて良かったと安堵しながら105号室に戻った。 「幸月、俺とおんなじように息を吐いて」  床に座りそう告げて、俺は大きく息を吐いた。音が聞こえるようにゆっくり息を吐き、それより少し短く息を吸う。 「ふぅー……はぁ……ふぅー」 幸月は俺の顔をチラリと見てから、苦しげな表情のまま呼吸の真似をし始めた。 「いい子。もう一回。ふぅー」    何度か繰り返すうちに、体の筋肉の強張りも解けてきた。緊張状態で疲れたのか、幸月はぐったりと体をもたせかける。 「よく頑張った。偉いよ、幸月」 そう言いながら頭を撫でた。慣れない環境でよく耐えた。過呼吸になって怖かっただろうに、ちゃんと俺の真似をしてくれた。本当によく出来たと思う。    他の子より適応できていない部分はまだまだあるが、幸月のペースでやっていくしかない。

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