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得意創作 5

 直を外へ連れ出した桜は俺の元に戻ってくると、中には入らずに話し始めた。 「先生がひなどりさんに戻っちゃって少し寂しかったけど、でもこうしてたまに来てくれるの凄く嬉しいな。ありがとうね」 思わぬ言葉に胸が熱くなる。関わっている児童からの「ありがとう」ほど、嬉しいことは無い。 「そう言ってもらえると嬉しいよ。時間があったら、勉強も教えに行くな」 「うん! あ、そうだ。今年の秋旅行のしおりの表紙ね、私が作ったんだよ。まだ印刷終わってないらしいんだけど、出来たら見てね」  秋旅行とは、つばめ棟の恒例行事の一つである。一年に一回、秋に一泊二日の旅行に行くのだ。 「そうなんだ。配られたら見てみる。今年はどこに行くって?」 「うーんとね、○○町高原牧場と、温泉! 牧場では乳搾り体験とか、羊毛フェルト工作するらしいの! すっごく楽しみ!」  桜は声のトーンを上げて嬉々として話してくれた。こんなに興奮している桜は珍しい。よっぽど楽しみなのだろう。  社会がメルヘンを排除する仕組みが出来上がっている以上、メルヘンが社会と触れ合う機会は極端に少なくなる。  施設の子供達も、小学校や中学校に通っている子はまだしも、卒業したり、知能的な面で通えない子は毎日をこの施設の中で過ごすため、やはり施設の中と外のギャップが大きくなってしまう。  それを解消し、外知る機会として設けられているのが秋旅行だ。本当なら年に一回でなくもう少し回数を増やせれば良いのだが、資金の面、職員数の面で現状では難しい。  中学を卒業して半年の桜にとっては久しぶりの外の世界だ。それは楽しみだろう。  桜はベランダに立ち、壁にもたれた。そして園庭で遊びはしゃぐ子供たちに、まるで我が子を見るかのような優しい眼差しを向けてこう言った。 「外に出るって凄く大事だよね。日の光浴びて、草の上に寝っ転がって……。中にいる時よりみんな生き生きしてる。そしてさ、もっと欲を言えば……欲を言えばね、学校とか、買い物とか、もっと広い外の世界に出れたら良いんだけどね」 そうできたら、どんなに幸せだろう。 桜の言葉の続きには、そんな思いがあったように思えた。

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