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得意創作 6

 今日は久しぶりに宿直では無かった。幸月がちゃんと食事できるか、寝てくれるかだけが気がかりだったが、どうにか堪えて施設を後にした。  車を運転して家に帰る道すがら、フロントガラスから車窓へ流れていく景色を見ては桜の言葉を思い出していた。    今目の前に映るこの社会を、日常を、あの子達は何も知らない。   確かにあの施設は安全だ。穏やかだ。  比べて社会には悪意を持つ人間がわんさといる。メルヘンが1人で生活するには危険な場所だと言わざるを得ない。  しかし、ここには人生を豊かにする刺激と出会いが満ち溢れている。あの小さな箱庭に無い新しい変化が次々と巻き起こる。それが時に煩わしく、時に胸を高鳴らせる。  こんな気持ちを、あの子たちは知らない。  小さな施設の中で、職員がいなければ、予定に無ければ園庭にも出られない生活の中で、それが安全だからと、それで良いわけがない。  誰もが等しく幸せになる権利がある。幸せを享受する権利がある。幸せを受け取りやすい環境に身を置く権利がある。  桜のような思いをするメルヘンをこれ以上出したくない。出したくないのに……。  赤信号で車を止めた。  ブレーキを強く踏む。  俺はハンドルを握ったまま、項垂れた。  この社会を変えるには、俺はあまりに無力だ。

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