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得意創作 8
昨日外遊びをするつばめ棟の子供たちを見て、幸月も気分転換に外に出したらどうだろうかと思ったのだ。
ひなどり棟の子供は基本的に外に出ないが、出てはいけないという決まりは無い。いつも室内で、さらには限られた人としか関わらないままなのは、これからの幸月の成長に良くない。大勢の人と一緒なのはまだ難しくても、2人で違う環境に行ってみるのは出来るかもしれない。
俺は幸月を立ち上がらせて、窓際に連れて行った。そして外を指差す。
「外。あっちが外だよ。今日はそこに行く」
幸月はじーっと青空を見て、奥の林を見てから俺を見つめた。
「わかった? 大丈夫? 今から行くよ」
幸月は頷いたかどうかもわからないほど微かに首を縦に振った。
しかし、ドアの前に連れて行った瞬間に何か察したのか、繋いだ手に少し抵抗を感じる。
振り返ると、顔をこわばらせていた。以前部屋を出たのは交流会の日だったから、それを思い出しているのかもしれない。少し手が震えている。
「今日は他に誰もいないよ。怖いなら抱っこで行くか」
そう言って脇に手を入れて抱き上げると、大人しくしがみついてきた。まだ警戒している。
とりあえず廊下に出て、人の気配が無いことを確認する。この時間はみんな部屋で遊んでいるから、ひなどり棟は静かそのものだ。
浴室、トイレ、事務室の前を通り過ぎ、廊下の突き当たりにある扉を開ける。一旦幸月を下ろして靴を履き替え、幸月にも靴を履かせてやった。共用の靴なので合うか心配だったが、大丈夫そうだ。
また幸月を抱き上げて外に出ると、瞬間びゅうっと風が吹いた。
「ひゃっ」
そんな小さな悲鳴をあげて、幸月が顔を隠す。
「はは、顔に当たったか? 今日は少し風があるな。気持ちいいなー」
9月に入ったばかりの現在、残暑というのか気温はまだ高いが、日本の夏特有の蒸し暑さは少しだけ鳴りを潜めている。このくらいの気温であれば、日陰で遊んでいるぶんには問題ない。
建物の裏手にある林の方へ回ると、日当たりが良いところにはシロツメクサがたくさん生えていた。この辺なら暑くなったら木の下に入ればいいし、遊びやすそうだ。
「よーし、降りようか」
幸月をその場に下ろし、俺もしゃがむ。幸月は草の感触にびっくりしたのか俺の肩のあたりにしがみついた。
「お花がいっぱい咲いてるな。幸月、これ見てごらん」
一本手折り、幸月の顔の前に持っていく。目をぎゅっと瞑っていた彼は、おそるおそる花を見た。そして、ゆっくりそれを受け取った。
何も指示していないのに自ら花を手に取ったことに多少驚いた。しかしあまり気に留めず、隣に座るよう促した。
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