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得意創作 9
大人しく座った幸月の手はいつの間にか俺の肩から離れていた。シロツメクサの中に小さな幸月がちょこんと座っているのはなんだかとても似合っていて、あぁカメラを持ってくればよかったなんて少しだけ後悔した。
「この白いお花、シロツメクサっていうんだよ。これで、指輪作れるんだぞ」
また一本手折り、茎で輪っかを作る。
職員になってすぐ、草花で何か簡単なものは作れるようにと先輩職員に教えてもらったものだ。施設で子供と遊ぶ時は、子供にお手本を見せることが多いので、簡単な折り紙や人気なキャラクターは描けるようにしなければならない。
指輪を作り幸月に見せると、それもまた何も言わないうちに幸月は受け取った。そして、キラキラした瞳でそれを見つめる。外にいるせいか、今日の幸月の瞳はいつにも増して綺麗だと思った。
「それは指に付けるんだよ。貸してごらん」
シロツメクサの指輪を幸月の人差し指にはめてやるとぴったりだった。
「かわいいな。ぴったりだ」
幸月は手をパーにして、指輪を見つめた。
今日は反応が良い。最近、無表情からも幸月の気持ちが少しは読み取れるようになってきた気がする。
次は何を作ろうかと考えて、すぐ頭に浮かんだのはシロツメクサの花冠だった。
しかし、それは先輩に教えてもらってもかなり難しかった記憶がある。すごく不器用というわけではないが、こういう工作が得意というわけでもない。
とりあえず遠い記憶を頼りにやってみようと、俺はシロツメクサを手折った。
しかし、やはり冠は難しかった。
冠だ、といえば見えなくも無いが、そう宣言しなければ到底冠には見えない。茎もところどころちぎれてしまったし、花の位置も不恰好だ。これを幸月に見せるのは少々……いや、かなり恥ずかしい。
しかし、作った以上は……。
「うーん、冠を作るのは難しいなー。ほら、こんな変なのできちゃった、よ……」
上手く出来なかったことをネタにしようと隣にいる幸月のほうを見ると、幸月の手には俺が作っていたのと同じシロツメクサの冠があった。
しかし、大きく違うのはその完成度だ。
俺のはヨレヨレで人に見せるのは恥ずかしいレベルなのに、幸月のそれは綺麗に冠の形となっている。
初めて作ったはずなのに。
「す、すごいな……! 幸月、とっても上手だっ!」
驚きのあまり大きめの声をあげてしまったが、幸月は怯えなかった。それどころか、その時やっと意識をこちらに向けたという感じだ。
幸月は手を止めると、できた花冠と俺の顔を見比べてから立ち上がった。
そして、その繊細なな手で俺の頭に冠をのせた。あっけにとられて幸月の顔を見つめる。そして息を呑んだ。
彼の微笑は、何よりも美しかった。
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