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15歳の少年 4

 秀人はその日1日目覚めず、次の日の朝になっても目覚めなかった。熱はだいぶ下がっているので、もうそろそろ起きても良さそうなのに。    俺は緊急時に備えるため連日施設に泊まった。  一日の業務を終え、ぐーっと伸びをしてからふっと力を抜く。今日も一日やり切った。  椅子を回転させ、背後にある窓の外を眺める。  オレンジ色の空に、赤い点々がちょこまかと動いているのが見えた。今年のトンボは元気らしい。つばめ棟の子供たちは外に出てトンボ取りでもしそうだななんて思うと、自然と笑みが漏れた。 「お疲れ様」 「お疲れ様です。今日も泊まりですか?」 帰宅前の看護師に挨拶に行くとそう問われた。 「まぁね」 「相浦先生に交代してもらっては? 体が保ちませんよ」  心配顔の看護師は、もう1人の常勤医師の名を出した。確かに彼にお願いしたら、快く引き受けてくれるだろうが……。    俺は首を横に振った。 「秀人が夜に目を覚まして、知らない人がいたら緊張するかもしれない。俺に心を許してるのかすらわからないくらいだし」 「それも、そうですね。秀人くんが目を覚ましたら、ちゃんと休みを取ってくださいね」 「うん、ありがとう」  看護師はぺこりと会釈して看護室を出ていった。  その姿を見送り、さてこれからどうしようと考える。そして秀人の部屋に行く前に夕食を済ませてしまおうと、俺は近くのコンビニへ向かうことにした。

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