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15歳の少年 6

 俺は部屋から読みかけの文庫本を持ってきた。  どこまで読んだか、読んだところがどんな話だったかももう覚えていない。最初からまた読み始めよう。  ふっと気がつき時計を確認すると、21時を回っていた。ずいぶん本に熱中していた。物語はそこまで面白くないが、文章は読みやすい。すらすら頭に入ってくるのが気持ちよくて読み進めたら、もうあと残り数ページだ。  俺は本を開いたままサイドテーブルに置いて、秀人の様子を確認した。特に変わりはない。 「まだ眠くないな……」  部屋から持ってきた2冊目は読んだことのないものだ。1冊目をさっさと読み終え2冊目に入る。今回は小説ではなく思想論で、全く違うジャンルにさらに頭が覚醒していくようだった。  またある時気がついて、時計を確認した。  時刻は23時過ぎだった。それを見ると、なんだか途端に足元から冷気が這い上がってきて、ぶるっと体が震えた。同じ体勢で本を読み続けていたから、血行が悪くなっている。温かい飲み物でも飲もうと、俺は医務室に向かった。  医務室には冷蔵庫もあるし、水道やコンロもある。  俺は冷蔵庫から牛乳を取り出し、棚から取った砂糖を混ぜた。ホットミルクを飲もう。  マグカップにいれたそれをくるくると混ぜながら、ふと秀人にも作ろうかと考える。もしもこの瞬間彼が目覚めたら、一緒にホットミルクを飲めたら、きっとその時間はとても穏やかだ。俺はもう一つマグカップを取り出した。    二つ作ったホットミルクを持って、俺は病室に向かった。  彼は目覚めていないだろうけど、そんなことを思いながらも、どうして心は浮き足立っていた。  きっと、両手に持った温かいマグカップが嬉しかったのだ。彼との穏やかな時間が、予感できて。  ドアを開け、彼のベッドを見る。  思わず、大切なマグカップを落としそうになった。 「……な、に、見てんだよ……」  ゆっくり起きあがろうとしていた秀人は、目が合った瞬間そんな悪態をついて俺を睨んだ。しかし、睨まれていることすら今の俺を喜ばせるには十分だった。

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