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約束のはじまり 3

 秀人の呼吸が正常に戻る頃には彼は意識を失っていた。  しかし、要注意だ。  目覚めたらまた興奮する可能性もある。看護師と情報共有した際、彼女らの表情は強張っていた。秀人をどう扱えばよいのかわからないのだろう。だからこそ、俺がまず秀人との関係値を上げなければいけない。  汚れた白衣と上着を洗濯に出し、予備のワイシャツに着替えながら、俺は先刻の秀人の様子を思い出していた。  看護師から、「暴言が酷い」という報告がくるのも頷ける。  あの勢いで、彼女らも何か言われたのだろう。まぁ物を投げつけられたのは俺が初めてだろうが。  秀人からは、怒りと悲しみがないまぜになった不安定な気持ちを強く感じる。  彼の言動から察するに、その対象は親、メルヘン愛好家、そして病院の医者や看護師なのだろう。親やメルヘン愛好家からの酷い扱いは調査書から把握していたが、病院からも虐待を受けていたのかもしれない。  例えば、呼吸困難になりナースコールを押しても看護師が駆け付けない、医者が診察に来ないなどそんなところだろうか。そしてきっとそれらの証言は、彼がメルヘンだからという理由で誰も信じなかったはずだ。    メルヘンは理解力が乏しく、言語伝達能力も低い。  きっと勘違いだろう、気を引きたいだけだろう。  そんな偏見で、彼が受けた苦痛はおそらく無かったことにされたのだ。  しかし、彼が事実を誤認してありもしないことを話すとは思えない。秀人にはまだ知能テストを受けさせていないが、おそらく高得点を出すだろう。彼は賢い子だと思う。  秀人はおそらく人間不信だ。そしてとりわけ医者不信。それならまずは信用してもらうところから始めなければいけない。  関わったからには、こんなことではへこたれない。

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