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不安 4

 医務室で秀人と共に過ごすようになって数日。  彼は相変わらずそっけないが、病室で1人で過ごしている時よりは少しだけ生き生きしているように見えた。  そして時折、タブレットを使っていてわからないことは聞いてくるようにもなった。教えると、小さな声で「ありがと」と呟いてそそくさとソファに戻る。  彼を見ていると、自分も頑張って仕事をしようと思える。  看護師には負担になるんじゃないかなどと心配されたが杞憂だった。どうやら俺は、この扱いにくい少年がかなり好きらしい。  ある日の午前中、仕事に入ってすぐにPHSに着信があった。桐也からだ。幸月くんが熱を出しているらしい。話を聞くと、昨日ひなどり棟で交流会があった後から調子が悪かったとか。 「わかった。すぐ行くよ」  通話が切れてすぐに必要な荷物をまとめる。  交流会で他の子に話しかけられただけでパニックになり、翌日熱を出す。彼の、複数人がいる状況へのトラウマはかなり根深そうだ。幸月くんのメンタル面でのサポートは、個別的に考えていく必要があるかもしれない。 「……どこ行くの」  突然聞こえた秀人の声に、意識が現実へ引き戻された。幸月くんが高熱を出したことやその原因について考えすぎていたせいで、秀人へ気が回っていなかった。 「施設の子で熱出しちゃった子がいるみたいだから、今から診てくるんだよ。すぐ戻ってくるから」 「あっそ」  自分で聞いたくせに興味のなさそうな返事。まぁ、いつも通りだ。 「俺がいない間、いたずらするなよー」 「しねーよ!」  秀人は少しからかっただけでオーバーリアクションしてくれるから面白い。  今回も彼の背後に子猫が毛を逆立てていたような気がする。俺はそれをみて笑いながら手を振り部屋を出た。  もちろん彼は振り返してくれなかったけれど。

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