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不安 5

 幸月くんの処置を済ませて医務室に戻る途中、職員室の前で声をかけられた。声の主は旭だ。 「あっ、百瀬先生! あのっ、今咲ちゃんが一輪車で遊んでる途中に落ちて、膝を結構ざっくりいっちゃったんですけど……見てもらえませんか?」 「あぁ、わかりました。どこにいます?」 「教室のベランダのところで休ませててて……」  旭の後を追って教室へ辿り着くと、ベランダで他の職員に宥められながらもしくしく泣いている咲ちゃんがいた。 「ほら咲ちゃん。百瀬先生が来たからもう大丈夫だよー」 「いた……いぃ」 「どれどれ、見せてね」  立てられた膝からは、かなりの量出血していることがわかる。砂はできる限り取り除いたようだが、まだ付着しているところもあった。両膝とも深めに怪我しているが、特に酷いのは左膝だ。 「これは痛いねぇ。消毒して絆創膏つけなきゃいけないんだけど、まず砂落とさないと。浴室で落とそう?」  そう言うと、咲ちゃんの顔がみるみる青くなっていった。これから何が起こるのか予想できるのだろう。 「やだぁー! だって絶対しみるもん!」 「しみるけど、ちゃんと綺麗にしないとばい菌が入ってもっと痛くなるよ? 病院行かないと行けなくなっちゃう」 「それ、もぉ、やだぁ……」 咲ちゃんはまた泣き出した。  職員が背中を撫でながらも、少しずつ咲ちゃんを立たせようとしているのがわかる。しかし、彼女は頑なに動こうとしない。  これは長くなるぞ、と思うと同時に、医務室に残してきた秀人が少し気掛かりだった。

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