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トラウマ 2
抱きしめあって数分、秀人の体から力が抜けてきた。意識を失ったかと思ったが、そうではなく体力の限界らしい。少し呼吸が荒い。
「疲れたね。今日はもうベッドで休もうか」
「は、ぁ……はぁ………ぁ」
秀人は頬に額に汗をかいていた。握った手も同様だ。
俺は秀人を横抱きにして病室へ連れて行った。ベッドに寝かせて脈を測り、聴診器で心臓の音を確認する。発作には繋がらなさそうだ。
「ご飯は、落ち着いたら食べよう。一緒に食べようね」
「や、だ……」
「だーめ。じゃなきゃ今の感じ、絶対食べないからね。一口食べるだけでも違うから」
そう言うと、彼はいつものように俺を睨んだ。だが今回はあまり迫力がない。体力を使い切っているのだろう。
俺はベッド脇の丸椅子に腰掛けて、彼のお腹の辺りを規則的に優しく叩いた。
「な、にし、て」
「こうしてると眠くなるよー。今は寝ようね」
「うざ」
「ふふ、悪口言う元気出てきた?」
そんなやりとりをしながらも、俺は秀人のお腹をかけ布団の上からぽんぽんと叩いていた。
秀人がじーっとこちらを見つめてくるので、俺も負けじと見つめる。そうしていると、だんだん彼の眉間から皺が消えていくのがわかった。瞼が落ちかけて、また持ち上がってを何度か繰り返し、最後はすぅっと眠りにつく。
それを見届けてから、俺は病室を後にした。
それからその日は、秀人が目覚めた後一緒にご飯を食べた。少し調子を崩した秀人は気が乗らないようだったが、野菜とデザートのゼリーは食べてもらった。
秀人の元気が戻らなかったため帰るのを渋っていると、看護師に「先生まで体調を崩されたら困る」と言われてしまった。仕方なく宿直担当の相浦先生に事情を説明し気にかけてもらうようお願いをして、定時で退勤することとなった。
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